『地域メディアとしてのwebの変遷』
   東京事務所 千葉晋也 2005.11.24 update ver.1


0)はじめに

 地域の顔が見えるコミュニティ(これを「地縁」と定義)が、現代の都市において希薄になってきていると言われています。実際に私自身も、札幌から東京に移ってからそれを非常に実感しています。賃貸マンションの場合は自治組織的な集まりもありませんので、一体どんな人が同じ建物に住んでいるのかもわかりませんし、自ら調べるまでは地域にどんな活動やコミュニティがあるのかもわかりませんでした。

 一方インターネットがここ数年で飛躍的に普及することで、関心、テーマでつながるコミュニティ(これを「知縁」と定義)が成長しました。

 私はまちづくりにWebメディアがどのように役立つのか?ということを考え、1996年からいろいろなWebサイトの立ち上げや、実験プロジェクトに参加してきました。地縁に代わって、それを埋め合わせるように知縁のコミュニティが生まれたのが初動期だとすれば、最近はつながりあうシステムの進化もSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の中でひとつの完成形を見たような印象を受けます。つまり、知縁をつくるしくみが成熟し、改めて地縁の再構築に向う流れがはじまるのではないかと考えています。

 地域で地縁のコミュニティを維持している町内会などの自治会組織と、Webでコミュニティを形成している若い世代が、顔の見えるつながりをつくるために、どんなWebメディアの活用ができるのか?これからはこうしたことに着目したいところです。

 そこで、現在に至る迄に、地域メディアとしてWebがどんな変遷をとげてきたのかを整理してみました。

 


1)世界とつながる「知縁」のコミュニティ


 ○1990年代半ばよりインターネットの普及がはじまる

 ○当時はユーザー数も少なく、ホームページづくりをする者同士が
  模索・交流・ノウハウ交換をしながらインターネット文化をつくって
  いった。それは国内外問わず交流が進んだ。

 ○メジャー指向から、個人の価値観でつながりはじめたのが特徴

 ○阪神淡路の震災とともに、ヒエラルキー型情報システムの脆弱性が
  露呈し、個人の情報の横のつながりが価値を持ちはじめる。

 ⇒「e-zine SHIFT」
  世界中のすぐれたデザインのwebサイトを紹介することを目的に、1996年にスタート
  したインターネットマガジン。本拠地は札幌であったが、インターネットの特性を
  活かし、国内外のエディターが活躍したことで、一躍世界中のクリエイターから注目
  を集めることになる。 

  

 

2)「知縁」から「地縁」を創出・再生するコミュニティweb


 ○インターネットは、世界とつながるという発想と同時に、地域との
  つながりの再生のための可能性にも着目された (=コミュニティweb)

 ○新興住宅地など、古くからの地域の縁(地縁)が希薄な地域で、
  インターネットを介した縁(知縁)がコミュニティを生み出し、
  再生していく可能性を持った。

 ○電子掲示板(BBS)を通して、様々なテーマで、地域の人が
  交流。ただし管理・運営の役割は重要。独自のルールづくりも。

 ⇒「光が丘Walker」〜個人が新興住宅地にコミュニティを創出
   平成8年に東京都練馬区光が丘周辺でスタートした、コミュニティweb。
  特定の企業・団体が運営しているのではなく、光が丘に住む夫婦が非営利で個人
  サイトとして運営している。「フリートーク」「きんだーがーでん」「お気に入りの
  お店」「教えてPC/inet」などたくさんの掲示板があり、それぞれの掲示板には、
  ボードリーダーと呼ばれるボランティアの管理者が管理・運営を行う。
  掲示板やそのオフ会を通して、様々な顔の見えるコミュニティが生まれ続けている。

 


3)行政による市民参加の場づくりへの挑戦


 ○現在、ほとんどの自治体がホームページを開設し、市民に向けた情報
  発信を行う時代になったが、インターネットの双方向性を活用している
  事例は未だに少ない。

 ○慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では、90年代に藤沢市や大和市
  等の自治体と連携し、インターネットによる都市マスタープランの
  市民参加や、市民電子会議室による市民協議の場、コミュニティづくり
  の場の提供などの実験を行ってきた。

 ○これらは一定の成果をあげている反面、参加の母数の解釈や、個人情報
  保護、発言の管理など、行政的には消極的になりがちな課題を抱えて
  いることが、普及の妨げになっていることが考えられる。

 ○藤沢市の場合「運営委員会」という、行政と市民の間に中間的な組織を
  がルールづくりや運営の責任を担っている

 ⇒「藤沢市市民電子会議室」〜行政がチャレンジしたwebによる市民参加
 ・市民と行政の協働による共生的自治実現の一方策として、インターネットを活用した
  新しい市民提案制度の構築と、ネットワーク上のコミュニティ形成を目指して立ち上
  がった。運営は市民公募により選出された運営委員会が行っている。
 ・市民参加の場である「市役所エリア」と、コミュニティ形成の場である「市民エリア」
  の2つのエリアがある。
 ・市役所エリアは市が主催し、運営委員会が決めた市政に関するテーマに沿って意見交換
  を行い、運営委員会が出された意見をとりまとめて市へ提言・提案することができる。
   市職員が参加していること、 実名でのみ発言できること、運営委員会によりテーマを
  設定し、市が開設をするということが特徴。
 ・市民エリアは、市民(在住・在勤・在学)であれば誰でも開設でき、市民自らが会議室
  を開設して、意見や情報を交換し、その成果をまとめることにより生活や地域に根ざし
  た情報の蓄積を行うことで、ネットワーク上のコミュニティづくりを目指している。

 


4)webに「地縁」を求めるテーマ型コミュニティとは


 ○コミュニティwebは、地縁を持たない人、地域の特殊な情報を必要と
  している人に有効だと考えられる。

 ○光が丘の様な事例の他、藤沢の電子会議室では、市役所エリアより
  市民エリアの「バリアフリー」「子育て」というテーマが最も活性化
  したことからもうかがえる。

 ○障害者に関するコミュニティでは、外出した時に、車椅子が通れない
  場所はどこか?車椅子で入れるトイレはどこか?乗れるバスはあるか?
  といった情報が非常に重要になる。また、障害者を持つ家族の思いや
  一般の人の障害者への理解など、電子会議室ならではのコミュニティが
  生まれ、有効に機能した事例である。

 ○子育ての場合も同様で、都市部の場合、結婚に伴って引っ越しをし、
  地域の状況を知らない中で子育てを行うケースが多く、子育ての地域
  情報や、子育てのノウハウ、悩みの共有、ベビーカーで行ける店、
  オムツ替えのできる場所などの情報が非常に重宝される。

 ⇒「バリアフリーマップふじさわ」(藤沢駅周辺版)
  藤沢市市民電子会議室の「バリアフリーを考える」会議室において、バリアフリーに
  関して議論をすすめ、具体的に藤沢市内各地のバリアフリーマップを作成しようと
  発足されたボランティア団体「バリアフリーマップを作ろう会」が、街に出て
  つくったマップ。障害者やその家族をはじめ、主婦や高齢者、専門家などがゆるやかに
  集まり協力しながら活動している。

 


5)地図を介してつながるコミュニティweb


 ○地図を双方向メディアとして活用することで、地域の情報がより視覚的
  に閲覧・交流することができ、様々なコミュニティの活性化につながる
  と考えられ、様々な取組が進んでいる。


 ○一方で、地図どうやって入手するのかが課題となっている。
  広域の地域を扱う場合、そのサイトの主催者が地図を作成するのは
  困難であり、また広域の地図の使用権を得るのには非常にお金がかかる
  のである。

 ○現在、行政が内部的に使っていた地理情報システム(GIS)を市民にも
  閲覧、提供できる動きや、汎地球測位システム(GPS)の実用化により
  急速にインフラ環境が整いつつあり、今後の発展を期待したい。

 ⇒「ご近所さんを探せ!」
  1995年に開設された、地図つながりの老舗的サイト。近所に住んでいる友達を探した
  り、街の情報を調べたり、趣味の仲間を探したりと、いろんな事を実現するサービス。
  会員になると、他の会員とのメール交換や、掲示板の活用、サークルへの参加を通し
  て、仲間づくりができる。


 ⇒「カキコまっぷ」
  地図情報を介して、インターネット上で地域の問題をワークショップできないか
  というテーマで、企業や専門家、大学がコンソーシアムをつくって研究開発された
  システム。現在は、東京大学が様々なコミュニティと連携し、活用実験を進めている。
  自転車を利用する人同士の情報交換や、子育ての地域情報交換など、その活用方法は
  様々である。また、GPS機能を持つ写真付き携帯電話から、写真を地図上に送るなど
  新しい試みも実験中である。

    ⇒カキコまっぷの事例「志村第一小学校安全マップ」(東京都板橋区)
    ⇒カキコまっぷの事例「ママパパぶりっじのカキコまっぷ」(東京都世田谷区)
 
  ⇒「GISって使えるよ -国土交通省国土計画局-」
  双方向のGISを使ったwebは国が力を注いで様々な実験を展開している。

  ⇒「電子国土ポータル」
   GIS活用の課題である地図データの共有化なども解消されていくだろう。

  ⇒(関連)「Googleローカル」


6)発信するというバリアを取り除きつながりを支援するしくみ


 ○インターネットのバリアは、ホームページづくりが簡単ではないこと。
  簡単な手続きで情報発信できるシステムによって、情報支援をする
  サイトが生まれた。

 ○定型的な情報発信が多い場合は、情報発信を自動化するシステムを
  導入することで、「ホームページ担当者」が不要になり、関係者
  すべてが情報発信できるように。

 ○ブログ(weblog)の発展により、誰もが気軽に自分の考えや情報を
  エントリー(記事の投稿)することができ、エントリー単位で情報が
  つながっていくことができる(トラックバック等)ようになった。
  これはコミュニティwebへの応用も充分期待できる。

 ○Xoopsというオープンソースの登場により、こうしたシステム開発は
  より身近になってきている。今後より小さなコミュニティを支援する
  webの登場が期待できそうだ。

 ⇒「世田谷市民活動支援サイト せたがやGenkiネット」
  世田谷区内で公益的な活動を行っている市民活動団体の活動が、簡単に団体の紹介や
  活動情報を発信できるサービスや、世田谷区と中間支援機関による活動支援情報を
  市民活動団体に提供する場となっている。

 ⇒「世田谷子育てネット」
  子育てグループが気軽に情報を発信できる「マイホームページをつくろう」という
  システムや、先述した「カキコまっぷ」などで子育て情報を支援するとともに、
  ブログ(weblog)のシステムを応用し、主催者側からの情報発信機能を簡易化し、
  管理・運営をスムーズにした。


 

7)進化したwebの姿〜SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)


 ○BBSなどの交流のしくみは、匿名の顔の見えないつながりであること
  が多く、情報の信憑性や、場の信頼関係を担保するのが難しいことが
  課題であった。そのため健全な場づくりには管理人の負担も大きい。

 ○SNSは、人と人との「縁」を目に見える形にすることで、新しい縁を
  拡げるこれまでのコミュニティwebのノウハウを発展させたものと
  言える。

 ○多くのSNSは、「招待制」つまり「閉じた場」にしたこと、顔の見え
  る信頼関係を担保していることが大きな特徴である。

 ○自分と交流のある人を登録したり、日記や写真を公開したり、コミュ
  ニティをつくって交流したりと、既存のwebのしくみを束ねているが、
  「閉じた場」で「縁をつなぐ」ことが加わり生きた場が生まれた。

 ⇒「ミクシイ」
  32万人以上が登録している日本最大のSNS。招待制のため誰かに招待されないと
  参加できない。親しみやすいデザインと、つながりを楽しむことができる様々な
  配慮があり、普段なかなか会えない友人知人がとても身近な存在として「つながり
  なおし」ができる場となっている。
 

 

8)地域メディアとしてのwebの挑戦


 ○webの交流機能は進化したが、結局地域をどのようにメディアとして
  編集していくかということは、それぞれの地域の課題や目的に応じて
  しっかりと考えていかなければならない。

 ○単純に地域情報が便利に見れるようなポータルサイトがいいのか?
  地域の中で活用するのか?地域の情報を外部に伝えるのか?どんな
  人を対象にしているのかでその内容は全く変わってくるだろう。


 ⇒「2000人のホームページ」〜中山間地域の歴史や文化を残すために
  山梨県早川町は人口1600人で町域の96%を山地が占める中山間地域。若い人が
  いなくなり高齢化が進み、地域の文化や伝統を伝えていくことが困難に。
  埋もれていく歴史や文化を、各地の大学と連携し長期休暇を利用した学生ボランティア
  の力を借りながら、町の人物にスポットをあてたインタビューを中心にwebで発信し、
  来訪者との交流や、地域の価値を再認識するキッカケとなっている。

 ⇒「田舎.TV」〜田舎の魅力を住民が発信!都会とのつながりにキッカケに
  兵庫県丹波地域の山間部の農村から全国に、田舎の魅力を伝える町おこし活動。
  町民レポーターが農村のごく当たり前の日常を写真や映像でレポートしている。
  町外に出ている出身者や、多くの都市住民に田舎がもつ魅力を伝えるとともに、町民
  が地域の価値を再発見するキッカケとなっている。

 ⇒「世田谷ネット」観光3コンテンツ
  コミュニティwebのあり方を模索し、様々な実験を95年から繰り返してきた世田谷
  ネットは、地域の関心をつなぐコンテンツとして、地元の観光をテーマに、webと
  現場のイベントやカフェの立ち上げ、名物の開発などをはじめている。次の3つの
  webは、実験途中であるが、現場と人と連動して広がっていく可能性を持っている。

   ⇒かんがえるひと+こたえる人=「せたがや検定」
    かんたんなものから、超!難題まで、「旬の世田谷ネタ」を出題・回答。
    気がついたら世田谷博士になっていた・・・。それが「せたがや検定」である。
    ネタがたまったら「問題集」を発行、将来は「せたがや検定試験」も実施予定。

   ⇒世田谷名所案内「世田谷お出かけデータベース」
    1998年に有志によってつくられた「オンラインせたがや百景」の発展系。
     地域からの情報提供で、世田谷の名所がどんどん蓄積されていく。 将来的には、
     登録のある場所で音声ガイドが聞ける端末との連動なども検討中。

   ⇒名物・みやげはオマカセ!「世田谷ゆかりの産品」
    地元の野菜を地元で食べる。地元の隠れた名産品を地元で楽しみたいという発想で、
    区内の名物情報を収集中。また、観光ブースを開き展示販売したり、「三軒茶屋
    せんべい」など、あたらな名物の開発も行っている。

 

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