「場」の空間デザイン

・空間の適切な密度

ワークショップの会場の雰囲気と椅子、テーブルなどの配置はワークショップの成果に大きく影響することがあります。以前に札幌を代表する歴史的な建物の「時計台」でワークショップをやったことがあります。ちょうど重要文化財の修復事業が終わり、いろいろな催しに気軽に利用できるようになったので使ってみようと思ったのですが、どうもワークショップの結果がおもわしくありませんでした。むろん、ワークショップのプログラムそのものの問題も大きかったのですが、大屋根の小屋裏を見上げる吹き抜けの大空間がさらに足をひっぱっていたようです。経験的には参加者の人数に対してある程度コンパクトな会場が良いようです。理由はきちんと説明できませんがおそらく次のような理由によると考えられます。ワークショップの「場」ができるには、参加者の気持ちが参加者同士の間で開きあっていることが必要です。人は大きな開放的な空間に身をおくと自己防衛的に「身構える」傾向があり、逆に穴蔵のような空間は隠れ家や巣のように「なごむ」わけで、ワークショップには後者の方が向いていると思います。ひらたくいうとアットホームな雰囲気の会場がよいということです。

・空間の焦点をどこに

椅子、テーブルなどの配置もきわめて重要です。ひとりが多数の参加者と向き合う配置は経験的によくありません。真正面から向き合う関係は強い緊張感を生みます。日常生活で向き合う場面を想像すると、対局、対戦などの競い合い、争いごとの場面であったり、学校の教室ように先生と生徒のように上下関係がある中で一方的な情報伝達をおこなう場面などが思い浮かびます。人の心理と場の関係では、対面、横並び、直角に向き合う関係の順にコミュニケーションが円滑になるということを聞いたことがあります。一方的な説明をするのであれば対面で結構ですが、いっしょにまちづくりを考えようというのであれば避けるべきです。ある程度、回を重ねて参加者と主催者の信頼関係が生まれ、参加者同士も気心が知れるような状態になればそのような配置も全くダメというわけではありませんが、あまりおすすめできません。

しかし、最初に主催者が挨拶する場合や、今後の進め方などの説明、それに今後ワークショップの運営を担当するファシリテーターが参加者と最初の出会いをする場面では対面関係が避けられない場合があります。けれどもそこが一番神経を使う場面で、へたをすると日常の行政不信などが対面関係の緊張感をつうじて一挙に増幅され、本題にはいる前に過去のまちづくりに対する不満やワークショップの成果がほんとうにまちづくりに生かされるのかといった懐疑的な意見がたてつづけにだされ先に進まずに終わってしまうこともあります。

そこで私は参加者を5〜6人のグループに分け、各グループのテーブルが中心を向く配置をよく使います。折衷案のような配置ですが比較的うまくいっているようです。

・場面の転換

ワークショップの開催時間は企画にもよりますが、だいたい2〜3時間かける場合が多いと思います。その間、参加者が同じ椅子とテーブルで議論や作業をするのは苦痛かなと感じることがあります。その場合は、意識して「場面の転換」をすることがあります。たとえば、グループ作業が終わって、発表に移る際に「各自、椅子をもってここを囲むように集まってください」といったように、体を動かし会場のレイアウトを変えることをします。めんどくさそうに応じる人もいますが、結構、気分転換にはなるようです。特に発表の際は、グループ作業のボードの文字や図が遠くからでは読みづらいこともあり、椅子だけの状態でコンパクトに集合するのは意味があります。