誰にどのように呼びかけるか?

・参加者がいなければ始まらない

あたりまえの話ですが、ワークショップは参加者がいなければ始まりません。ただ、誰でもいいということではありません。ワークショップの目的を今一度よく考えて、目的にあった参加者をイメージすることが必要だと思います。とはいっても、「あの人には声をかけやすい」とか「あの人は話がわかる」といった主催者の都合による参加者選びということではありません。地域の声を広範に把握しようとしているのか、計画に対応する特定のエリアの地権者の合意を形成しようとしているのか、地域におけるまちづくりの担い手との出会いを期待しているのか、本来の目的から参加者像を明確にし、どうしたらそれらの人々の参加を得ることができるかを考える必要があります。

・まちづくりに意欲のある人との出会いを大切に

ワークショップの目的によって、参加者像はいろいろだと思いますが、どのような場合にも主体的にまちづくりに関わろうという意欲のある人を大切にすることが重要でしょう。問題は、どうしたらそのような人が参加してもらえるようになるかです。私の経験では、公募によって出会う確率が高いような気がします。公募といっても、市の広報での呼びかけは限界があるようです。ある市の主催するワークショップで、「日頃、広報を読んでいるか」を聞いたところYESと答えたのは約2割でした。読んでいる人の属性も、お年寄りの男性とか偏りがみられる傾向があるようです。これは、どこでも似たようなものと思われますが、いかがでしょう。では、どのような公募の方法があるかということですが、ある地域では、対象エリア約9,500世帯に町内会の協力を得て全戸に参加の呼びかけのニュースを配布しました。参加のリアクションは103名で、最初はいささか拍子抜けの感がありましたが、そこでの出会いがまちづくりの次のステップにつながる住民の主体的取り組みへと展開していきました。また、ある地域では、駅を中心としたまちづくりを考えると言うことで、行政の担当者自らが、街頭で参加の呼びかけのチラシを配布したこともあります。いずれにしろ、「まちづくりワークショップ」などに参加する人数が飛躍的に増加する方法など無いかもしれませんが、新しい力に出合う機会を増やすことと、仮に直接参加しなくても、行政が自ら地域に目に見えるかたちで働きかけるという主催者の熱意と地域でそのような取り組みが始まることの情報発信といった面では効果があったと思っています。これら以外にも、ワークショップの目的に応じた様々な参加の呼びかけの方法を模索する必要があると思います。

ワークショップ参加を
呼びかけるチラシ
行政の担当者も慣れない手つきでチラシを配った。
あとから「役所の方が自らチラシを配っている姿をみて、
その熱意に感動しました」と電話があり自信をつける。

・地域を元気にするお母さんと子どもたち

地域で主体的にまちづくりの取り組みをおこなっていこうという意欲が育つ人は、地域で生活する「お母さん」の場合が多いようです。お父さんの多くは夜間人口化して、地域に対するきめ細かな視点や関心が薄れがちなのに対して「お母さん」は、子どもを育てる環境として具体的な課題と夢をもっていることが多いといえます。また、子どもたちも重要な役割を果たす場合があります。ある地域に「こどもまちかど解決隊」というおもしろい活動をしているグループがあり、地域のまちづくりを考えるワークショップに参加してもらったことがあります。このグループは小学生から中学生までの子どもたちが、地域の身近なまちづくりの問題に知恵を出し合い、提案や活動をしています。地域の大学の研究室が全面的に支援している地域活動ですが、子どもたちの視点を大切にするといった目的にとどまらず、子どもたちが主体になることによって地域にゆるやかなまちづくりの問題的をしていく狙いもあるようです。その時のワークショップでは、主催する行政の担当者から「問題解決の依頼のお手紙」を子どもたちに送るというところからスタートし、現場で考えたり、話し合ったり、最後には大きなケーキに提案をまとめるところまでいきました。その活動内容をワークショップで発表してもらうことによって、「誰もが問題を考えることができ、こんな楽しいまちづくりの取り組みもあるのだ」ということを参加者に気づかせてくれました。このような地域を元気にするお母さんと子どもたちが積極的に参加してもらえるような呼びかけを考えるのも重要です。

「こどもまちかど解決隊」のみんなが
広場の大きさを、手をつないで確認しているところ。
道行く人も「何をやっているのかな?」
広場の提案は大きなケーキになってみんなの口に。

・町内会の役員さんは・・・

地域でまちづくりを議論する際に、町内会の役員さんが地域の意見をとりまとめて、地域の代表として議論に参加することが多いこともあります。これは地域のコミュニティの状況によって大きく異なると思いますが、ワークショップの参加者のことを考える際に必ずといっていいほど「町内会の役員さん」の問題が出ます。町内会の加入率の低下や、役員の高齢化、固定化などの問題を抱えた地域は多いのではないかと思います。地域の声を反映する窓口としての機能が十分果たせる状況か、考える必要があります。私が関わったワークショップでは、地域の代表としての立場ではなく個人として参加してもらっていますし、それも必ず参加してもらうというという形にはしていません。それよりも、町内会の役員さんとは、別の関わりが重要と考えています。ワークショップとは別の場をもうけ、これから始めるワークショップの目的と成果の活かし方について、きちんとした理解をもってもらい、できれば共催というかたちで地域の皆さんと一緒に考える体制をつくる方向で取り組めるか検討します。共催は責任の所在とか、信頼関係とかが前提になるので、かたちにこだわる必要はないのですが、何らかの協力体制はつくっておきたいところです。先にふれたニュースの全戸配布などは、協力体制ができていないと実現しません。ケースによっては、そのような協力体制はもとより信頼関係さえ危うい状況の中でまちづくりを考えていかなければならない時もありますが、目的と成果の活かし方さえ明確であれば、大抵はなにがしかの協力は得られるものと思われます。

・いろいろな人が参加できるように

一般的には、どのような目的でも、ワークショップにはいろいろな人が参加することが重要だと考えています。先に地域の問題解決の力は、地域に潜在的にあると言いましたが、ワークショップという「場」に参加する人が偏っていては十分にその力を引き出すことができません。ものわかりのいい人だけが集まっているのは、運営する方としては気楽ですが、地域の抱える問題の本質にふれることなく表面的な議論に終わる危険性があります。地権者だけの議論も、目先の損得にとらわれ地域を総合的、長期的に見る視点が失われる危険性があります。特に、初めて地域に入るときは、できるだけ多様な価値観と視点を持った人が参加できるように努力することが、後々良い成果を生む結果になると考えています。

・人が人を呼び込む

地域と一緒にまちづくりを考えようと決めてから、実際に地域でワークショップを開催するまであまり時間が無い場合があります。できるだけいろいろな人が参加できるようにと考えても、思うように呼びかけができずにスタートしてしまうこともあります。でも、できる限りの努力をおしまなければ、仮にスタート時点では満足行かない状況でも、「人が人を呼び込む」といった思わぬ展開をみせることがあります。ある地域では、「若い人や、体の不自由な人の声も聞いてみたい」という指摘が参加者の中から出され、議論の末「参加者自身が呼びかけをしてみよう」ということになり、次回からは車いすを利用されている方や、中学生の子供さんを連れて参加されるお母さんなど多彩な顔ぶれになりました。それも、町内会の役員さんやまちづくりに一家言のある方をお招きするというかたちではなく、開かれた「場」をつくる努力をしたことが、参加者にそのような働きかけを促したと思っています。