こんな問題もやり方によっては住民主体で考えられる

・事例1:「範囲」を考える

歴史的な建物が多く残る地域を伝統的建造物群保存地区として指定する際の「範囲」について住民ワークショップで考えた事例です。目的は指定範囲の地域合意形成そのものではなく、伝統的建造物群保存地区の指定の是非を住民主体で考える一連のワークショップのひとつでしたが、最初にどの範囲を想定して議論を進めるかについて共通イメージを形成しようとしたものです。何を手がかりにしたら一般の住民の方が範囲について考えることができるのか、個々バラバラかもしれない範囲のイメージをどのようにして共有のイメージに収斂させるかといったことがプログラムを考えるうえでの重要なポイントと思われました。オーソドックスに専門家が伝統的建造物群保存地区の範囲を検討するプロセスをできるだけ分かりやすく解説し、作業をしてもらうことも考えましたが、最初からあまり難しいことを勉強し考えるのは避けたいとう気持ちもありました。そこで、町並みのポイントを写した写真を○○シーン用意し、まず「あなたが最も大切にしたい場所のベスト1を選ぶ」投票をしてもらいました。ほぼ2〜3のポイントに投票が集中したことを全体で確認し、次に「ベスト5」から「ベスト10」「ベスト20」と投票と結果の公表を繰り返しました。そして、最後に全部の投票結果を点数にして、点数の多い少ないを地図上に等高線の形で表現してみました。そうして等高線の密なエリアを全体で確認することによって、伝統的建造物群保存地区の範囲のひとつの目安を共通イメージとして得ることができました。これはたくさんの写真から重要なポイントを選び投票するという個人レベルの単純な作業を積み重ねることによって、最終的に「範囲」を等高線という具体的に目に見える図にして示すことができた点で、比較的有効な方法であったと思っています。参加者も人気投票のような気楽さなので結構楽しみながら作業をしてくれましたし、結果的に徐々に等高線ができあがるプロセスに関心と共感を持ってもらうことができました。現在、この地域は伝統的建造物群保存地区に指定されましたが、その範囲はこのワークショップでできた等高線のうち、島のように離れた地域をのぞいてほぼ重なっています。

・事例2:「デザインガイドライン」を考える

これは、商店街の魅力を高めるために町並み景観をどうすればよいか「デザインガイドライン」を考えた事例です。目的は、魅力を高めるには町並み景観にルールが必要だという認識と、ルールの内容について具体的にイメージするということで、景観形成へむけての前段の作業でした。これも「すっきりした町並みにする」とか「統一感のある町並みにする」といった漠然とした内容で終わる危険性もありましたし、現状の町並みにとらわれ新鮮な提案が生まれない可能性も想定されました。そこで町並みを、車道、歩道、店先、建物の1階、建物のそれ以外の部分というように5つのパーツに分けた大きな断面図を用意し、一方でいろいろな賑わいのある商店街やお店の写真をたくさん用意しました。作業としては「町並みのそれぞれのパーツがどうあれば魅力的なのか、気に入った写真を選びその中から要素を書き出す」というものです。写真選びはひとつのパーツに複数でもかまわないということにしたので、比較的容易な作業だったようです。気に入った写真に写っているものから要素を抽出するのも難しい作業でなかったので比較的短時間に終了しました。結果が用意された写真に制約されるという問題はありますが、町並み断面にイメージ写真と構成要素が記入された成果は、充分「デザインガイドライン」として通用するものになったのではないかと思います。

・事例3:「環境整備のパートナーシップ」を考える

これは、商店街の中に新しく建つマンションが都市計画道路の拡幅線に従いセットバックした範囲をインターローキング舗装をすることになり、それに合わせて町内会、商店街、行政が役割分担をしながらより環境整備をすすめる取り組みをするためのワークショップでした。この場合、具体的な場所をイメージしながら作業を進めることと、それぞれ何ができるのかを具体的に話し合う必要がありました。そのために用意したものはベースになる大きな街並み写真と、前の回で議論した環境整備の課題に対応した現歩道部分の舗装、街路樹、プランター、ベンチ、街灯などの要素を、ベースの写真に着せ替え人形のように重ね貼りできるようにCGで作成したもの。それと、お金、労力、モノ、知恵といったマークを記入したカードです。作業としては町内会、商店街、行政の3つのグループに分かれてもらい、まず「こんな環境整備ができたら」ということで環境整備の着せ替え人形遊びをしてもらい、次にそれを実現させるためにはそれぞれ何ができるのかをカードに記入してもらい、結果を発表後、皆で最終的な取り組みの方向を議論しました。なにができるのかについてかなり消極的な提案しかでないのではと危惧していましたが、行政は舗装、街路樹を、商店街は街灯とプランターを、町内会は街灯の電気代と完成後の日常の清掃をということでパートナーシップが成立しました。これは実際に整備に移されたのですが、残念ながら街路樹についは地先の方のひとりから猛反対され土壇場で実現しませんでした。ワークショップの結果が地域の合意とイコールになるためには、ワークショップ後の取り組みが重要であることを深く反省させられたケースでもありました。