まちづくりイメージをリアルに語る

・意外と言葉にしにくい「こんなまちになったら」

一般的な流れでは、まちの実態や、関連する計画についての一定程度の認識ができたら、「こんなまちになったら」というまちづくりの目標を考えることになります。これが意外と言葉にしにくいという問題があります。そのままストレートに問いかけると、ややもすると「うるおいとやすらぎのあるまちに」といったたぐいの言葉になってしまいます。行政の計画によくみられる表現ですし、私自身、困ったときによく使いそうになる言葉なのですが、住民とまちを考えるワークショップの成果としてはいささか物足りない気がします。そこには、生活者の気持ちを表現する言葉としてのリアリティが感じられないからです。

・場所、時間、出来事をイメージする

では、どうすれば「こんなまちになったら」というイメージをリアルに語ることができるでしょうか。これについては、デザインゲームとか演劇ワークショップとかいろいろな手法が開発されていますが、私は「物語づくり」をよく使います。参加者一人一人にまちや施設ができた状況を具体的な場所、時間、出来事をイメージしてもらい、それらを寄せ集めてひとつの物語をつくるという作業です。観念的に将来像を語るのではなく、具体的な状況を頭に思い浮かべ、それをもとに「まちづくりに何が求められているのか」を考えようというものです。参加者はどうしても「緑豊かなまち」とかで表現しがちですが、「その緑はどこにある緑なのか、季節はいつ頃か、緑の周りではどのような人が何をしているのか」といった情景をイメージしてもらいます。その場合、全員目をつぶって頭の中にその情景を思い浮かべてもらいます。

・物語の背後に読みとれる「地域の心」

そのようにしてできあがった個々人のいくつかのイメージを数人毎に寄せ集め、一つの物語を作る作業をします。もちろん、全てのイメージを使う必要もありませんし、物語として導入部やクライマックス、エンディングなどを考える中で使うイメージを増やしたり、順番もいろいろ変えながらストーリーを組み立てます。最初、この物語づくりをしてみようと思ったのは、議論型のワークショップが続いたので少し新鮮な作業を織り交ぜようというところからでした。発表もグループによっては、即興の演劇仕立てで行ったりして、楽しい時間が過ごせるというのも期待しました。実際にやると、期待通りのおもしろい物語ができあがったのですが、個々のグループの発表を全体的に眺めてみると、物語の背後に「地域の心」のようなものが読みとれることに気がつきました。この「地域の心」の発見については、少し例をあげて説明しましょう。地域の中心となる駅前広場と広場同士を結ぶ自由通路のあり方を考えるワークショップでは、当初からお年寄りや体の不自由な方でも使いやすいバリアフリー的視点からの提案が多く出されていました。ところが、この物語づくりでは、全体に共通して「住民としてのアイデンティティ」と「地域での癒し」といった新しいテーマが見えてきました。通勤駅として利用するサラリーマンが仕事に疲れ帰宅する際、駅の自由通路から見える山並みの風景や、自由通路で行われている地域イベントから、明日につながるエネルギーを受け取るといった物語などはその代表といえます。ワークショップを振り返ったアンケートにも、従来の固定的な視点が大きく開かれた体験として印象を書かれた方がいました。また別の商店街の活性化の方向を考えるワークショップでは、いくつかの物語をつなぐと、ふらりとその地域を訪れた旅人が、四季の変化の鮮やかな周辺の自然や、地域の人々の生活の風景、商店街の文化的イベントなどにふれることによって何時しかその地域に住むことになるといったストーリーが見えてきました。店の近代化、ショッピングモール整備といった限定された視点から、地域に住みたい、住み続けたいという気持ちを大切に考えるまちづくりの視点を発見する手がかりとなりました。