まちづくりワークショップを考える前に

・「像」と「場」はまちづくりの両輪

「像」とは、 地域のまちづくりエネルギーを凝集できる対象で、物的環境のあるべき姿を示したもの
「場」とは、 地域のまちづくりエネルギーを発生、共有、増幅させる社会的環境で、人と人との関係によって成立するもの

まちづくりワークショップとはどのようなものか、どのような方法でおこなうのかといった話にはいる前に、まちづくりそのものについて少し考えてみたいと思います。

まちづくりをすすめるうえで重要なキーワードは何でしょう。いろいろな視点があると思いますが、私は経験的に「像」と「場」という言葉が浮かびます。「像」とは、地域のまちづくりエネルギーを凝集できる対象で、物的環境のあるべき姿を示したものといえます。ひらたくいえば「こんなまちになったらなぁ」という気持ちがひとつになる力強いまちづくり提案ともいえるでしょう。「場」とは、地域のまちづくりエネルギーを発生、共有、増幅させる社会的環境で、人と人との関係によって成立するものといえます。これは別の言い方をすると地域の「まちづくり力」とでもいえるかもしれません。この「像」と「場」はくるまの両輪で、どちらかだけではうまくいきませんし、互いに他を力づける役割を果たします。「像」が「場」を生むこともありますし、「場」からすぐれた「像」が発見されることもあります。「住民の意見を聞いても専門家ではないので良い計画ができるとは思えない」という声や、「専門家が絶対正しいという計画を示せるわけではないので、住民が望むことをワークショップでうまくまとめればよい」という声も聞かれますが、どちらも正しいとはいえないと思います。

・「像」と「場」の専門家

すぐれた「像」や「場」はどのように生まれるのでしょう。地域の中で自然と生まれる場合もあるかもしれませんが、やはり専門家の力を必要とします。「像」の専門家とは具体的には建築デザイナーや都市プランナーなどをさします。もちろん全ての建築デザイナーや都市プランナーがすぐれた「像」の専門家とはかぎりません。ひとりよがりの建物を設計する建築デザイナーや、建設省マニュアルをコピーしたような提案しかしない都市プランナーなどが多いのが現状でしょうか。住民参加のまちづくりの重要性、必要性が幅広く言われるようになった昨今では、住民の意見やアイデアをナマのまま集めて提案とする場合も見受けられるようです。まちづくりワークショップの日本への紹介者のひとりであるヘンリー・サノフは「住民は食べる専門家であり、デザイナーは住民の味覚を満足させる料理人でなければならない」と面白い表現をしていますし、ランディ・へスターは少しまじめに「デザイナーやプランナーは、住民の考えを受け止めるだけでなく、自らの専門に基づく優れた提案をしなければならない」と語っていると言うことです。

それでは「場」の専門家はどのような人なのでしょう。これは建築デザイナーや都市プランナーなどのように具体の職種をあげることができません。しかし、誰もがすぐできるというものではなく、専門性の高い職能であることは間違いなくと思います。経験的には素質が大きく影響するような気がしますが、「場」をつくりあげるための理論の研究、学習や実践のトレーニングなどを必要とするものでもあります。

・「場」をつくるワークショップ

すぐれた「場」をつくるにはどうすればよいのでしょう。まちづくりワークショップはそのひとつの方法といえます。まちづくりワークショップとはどのようなものですかという問いには、いろいろな人がいろいろな答え方をしていますが要点は「地域に係わる様々な立場の人が参加して、地域のまちづくりの課題や方向性について、公平かつ創造的な協同作業をつうじて、資源の発見やまちづくり提案の作成、実現後の関わり方の検討などをおこなう会合」 のようにまとめられると思います。