さっぽろ夢ストリート
市民1000人ワークショップ



 2003年11月14日、15日の2日間、計517人の市民が集まり、百人のファシリテータと百人の書記のサポートによって、午前10時から午後5時までの長時間にわたるワークショップが行われた。テーマは「都心のまちづくりと交通のあり方を考える」。
■なぜ、大規模ワークショップか
 札幌市は、2000年1月に策定した第4次長期総合計画において、魅力的で活力ある都心の整備を政策目標にかかげ、歩行者を重視した人と環境にやさしい都心交通環境を実現するとした。その後、検討のたたき台として、自動車交通の大幅な規制を伴うトラフィックセルの導入を示したことから、都心事業者を中心に異議があいつぎ具体的な計画策定は難航した。札幌の都心は、明治期に計画的につくられた都市骨格が優れていたこともあり、市民生活上は冬期間の若干の渋滞はあるものの、大通公園などのアメニティ空間にも恵まれ、深刻な環境課題の存在が意識されない状況にあった。市の投げかけは今後の人口減もにらんだコンパクトシティ化もふくめ、現状課題解決型より将来価値創造型の問題提起だったともいえる。都心事業者や市民団体などに呼びかけた少人数の議論の場も設けられたが、理想か現実かといった論点でかみ合わない場面もみられた。市として政策転換の一歩を踏み出すには幅広い市民意向の把握が不可欠と考えられた。しかし、180万市民の声を政策に反映する仕組みをデザインすることは困難に思えた。
■モデルはグランドゼロワークショップ
 そのような時期に、ニューヨークのグランドゼロ跡地利用を考える5000人ワークショップの開催が伝えられた。市民の声が計画案の見直しの大きな原動力となった画期的な出来事であった。
 従来の車優先から人と環境を重視した政策への転換について1000人の市民の声を聴く場を設けるプロジェクトがスタートした。参加者の募集やファシリテータの確保など、様々な困難な課題が想定されたが、協働都市をめざす札幌市としてチャレンジする価値があるとされた。
■都市計画決定事業の事業化の判断も
 運営課題も山積する中、異例の再選挙によって当選した上田市長の要請により、すでに都市計画決定されている都心の2大事業についても、事業推進の判断材料として大規模ワークショップの議論の対象とされることになった。それまでの計画部局のみから事業部局をも含めた多部局にわたる検討会議が設けられ白熱した議論が交わされた。設計段階とはいえ事業に着手したものもあり、市民の声をどこまで反映することができるのか。1日のワークショップで的確な判断材料を得ることができるのか。1000人とはいえ180万市民の偏りのない声を聴けるのか。大規模ワークショップが背負う重さは、当初より大幅に増した。
■市民に支えられた事前の取り組み
 市は市内各所におけるパネル展などによる計画情報の提供や、百人弱の規模の事前ワークショップの開催により、市民が必求める情報や、論点の明確化の作業を行った。また、この取り組みの重要性を認識した市民団体が横の連携を取り合い全12回の連続フォーラムを開催。延べ1215人の市民が参加して様々な観点から都心のまちづくりや交通のあり方を考える機会を提供した。延べ100人のファシリテータも、研修会の開催やプランナー・ネットワークによるボランティア協力により実現することができた。
■ワークショップにおける市民の声は
 当日、集まった市民の年齢層は、20代から70代までほぼ均等で、居住地も都心に近いエリアが多いとはいえ、各区満遍なく、大筋偏りのない参加を得られた。各日、約250人ずつ同一のプログラムで行われたワークショップは、3つのテーマ毎に、事前ワークショップで整理された論点に対する賛否投票、90分のグループ議論、最終賛否投票という進行で行われた。着目すべきは、両日の事前事後の意見傾向がほぼ同一であったことである。参加者属性のみならず、意見傾向も偏りのない議論が行われたことがうかがわれる。これは大規模ワークショップのひとつの意義といえる。
 結果は、人と環境を重視した交通政策への転換に反対する割合は3%にとどまり、実現施策として公共交通の充実を約7割が支持した。問題の事業については、1つは事業着手を求めるのが約5割、計画を白紙にが約2割。もうひとつは、各約2割と1割。いずれも、事業着手には検討すべき課題が多いことが指摘された。
 これらの結果を受け、今回の取り組みが壮大なパフォーマンスで終わるのか、何らかの政策への影響を与えるもになるのか、市長の政策判断が注目される。